目次
1. レビットのマーケティング近視眼(マーケティング・マイオピア)とは
セオドア・レビット(Levitt[1960])により主張された、ドメインの望ましい定義について分析したものです。
レビットは企業がなかなか成長できなかったり衰退してしまったりするのは、市場に原因があるのではなく経営に問題があり、特にドメインが適切でなかったためだとしています。
具体的には、ドメインの定義を製品のみの視点で狭く近視眼的に捉えてしまったがために、事業が成長できずに凋落の一途をたどってしまったことであり、これを「マーケティング近視眼(マーケティング・マイオピア, marketing myopia)」と呼びました。
2. マーケティング近視眼の事例
レビットは様々な事例について、ドメイン定義の大切さについて述べています。
ここでは、そのいくつかについて紹介しましょう。
2.1 鉄道会社
米国の鉄道会社は、自らの事業を鉄道事業と定義したがために、輸送事業として捉えていれば得られたであろう成長の機会を逃し、衰退してしまったと分析しています。
2.2 映画会社
米国のハリウッドの映画会社は、自らの事業を映画産業と定義したがために、娯楽産業として捉えていれば得られたであろう成長の機会を逃し、大きな不振に陥ったと分析しています。
3. ドメインの物理的定義と機能的定義
マーケティング近視眼を踏まえると、ドメインの定義には以下の2つの側面があります。
3.1 物理的定義
ドメインを製品の視点から捉える方法です。
先の例でいえば、鉄道事業、映画産業と捉えてドメインを定義することになります。
榊原[1992]によれば、物理的定義は以下のように近視眼的なドメインの定義になりやすいと述べています。
- 企業の既存の製品やサービスにだけ着目しており、カバーしている範囲が空間的に狭隘である。
- 将来どの方向に向かって発展しようとするのか、発展の道筋を示すことが困難である。
3.2 機能的定義
レビットのいう考え方で、ドメインを顧客の視点から捉える方法です。
先の例でいえば、輸送事業、娯楽産業と捉えてドメインを定義するということになります。
機能的定義は、物理的定義よりも明らかに広い捉え方であり、先の例のような将来の市場環境の変化に対しても、より適応しやすいといえます。
4. レビットに対する反論
このようなレビットの主張に対して次のような批判も提起されています。
4.1 ティルズ(Tilles[1969])
輸送事業のような定義のしかたは、一般化のレベルが高すぎて戦略的には無意味であると指摘しています。
4.2 アンゾフ(Ansoff[1965])
例えば、輸送事業と規定することは、次の観点でドメインが広すぎるとしています。
(1) 考慮すべき使命(ニーズ)の範囲が極めて広い
輸送事業とは、それが都市内輸送なのか、都市間輸送なのか、あるいは大陸内輸送か大陸間輸送なのかが明確でないし、また陸上輸送なのか航空輸送なのかに関してもなんら指針を提供していない。
(2) 顧客の範囲が広い
対象とする顧客が個人、家庭、私企業、政府機関なのかが明確でない。
(3) 製品の範囲が広い
製品が、乗用車、バス、列車、船舶、飛行機、タクシー、トラックなどのうちどのような輸送に携わろうとするのかに関して指針を提供していない。
4.3 大滝・山田・金井・岩田[2006]
事業のライフサイクルによっても、その有効性は異なると述べています。
事業の導入期から成長期にかけては、物理的定義であってもそれが事業展開の有効な指針となっているケースが多いと指摘しています。
このように、事業を機能的に定義するだけでは、今度は逆にあまりにも広くなりすぎて活動の指針にならないといえます。
5. まとめ
レビットのいう「マーケティング近視眼」とは、ドメインを製品のみの視点で捉えるという物理的定義ことによって、狭く近視眼的になることをいいます。
一方で、ドメインを顧客の視点で捉えるという機能的定義だけでは、広くなりすぎてしまう恐れがあります。
ドメインを適切に設定することの難しさを示す一例といえましょう。